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この国際金本位制は、一九二○年代半ばから英・米・仏三カ国の間で激しく展開した為替切り下げ競争、すなわち為替戦争の中で崩壊した。
その過程を詳細にたどることは、守備範囲を外れる。
ここの流れとの関係で重要なのは、この為替戦争が国々の体力をむしばんでいく中で、最後まで金本位制を維持出来たのは、結局のところアメリカのみだったという点である。
当時の新興国であったアメリカは、その成長力に物を言わせて着々と富の基盤を確立し、金の保有高を高めていったのである。
かくして第二次大戦後を迎える段階では、世界の貨幣用金のおよそ三分の二がアメリカに集中していた。
日独は敗戦国となり、連合国側の欧州勢も勝ちはしたものの、経済的に疲弊し切ってしまっていた。
そんな中で、戦後において金と同じ輝きを維持し得た唯一の通貨がドルだったのである。
その基軸通貨としての地位が確立したのが、一九四四年七月、ブレトンウッズ会議でのIMF協定成立のその時だった。
IMF協定第四条第一項は、IMF加盟各国が自国通貨に関して平価(対外価値を示す基準値)を設定すべきことを明記した上で、その平価は「共通尺度たる金により、または一九四四年七月一日現在の量目及び純分を有する合衆国ドルによる」こととしている。
この一九四四年七月一日現在におけるドルの量目が、金一トロイオンス三五ドルであった。
以来、この金価値を持つ通貨であるドルとの関係で、その他全てのIMF加盟国通貨の価値が規定されることになった。
日本についていえば、戦後の一ドル三六○円体制に向けての枠組がこの時形成されたわけである。
一九七一年八月一五日のニクソン・ショックは、このドルを軸とする通貨体制に終止符を打った。
アメリカ自身がこの体制を維持する責務を負いきれなくなったのである。
端的にいえば、アメリカが保有する金の量よりも、遥かに巨額のドルが世界に出回り、アメリカからあまり物を買う必要がなくなりつつあった欧州諸国や日本の手元にドルが溜まり始めたのである。
こうなれば、ドルの有難みは薄れる一方だ。
こんなにも世界に出回り過ぎているドルの価値が暴落したらどうなるか。
誰もがそれを心配するようになった。
紙切れになる前に金なぜ我々はここにいるのかに換えておこう。
その心理が人々をドル売りへと駆り立てる。
各国の通貨当局も、ドルの金交換を急ぐようになった。
世界中から殺到するドルの金交換請求に対して、それらを全て受けて立つ余力はアメリカにもはや残されていなかった。
そのことをアメリカが世界に対して認めた日。
それが一九七一年八月一五日だったのである。
その意味で、ニクソン・ショックは基軸通貨国アメリカの退位宣言にほかならなかった。
王様が裸であることを自ら認めた日といってよい。
インフレ経済化するアメリカ裸宣言はそれなりに屈辱的だ。
だが、反面、いったん裸であることを認めてしまえば、これほど楽なことはない。
体面をつくろう必要はもはや無い。
ドルを刷るに当たって、保有する金との関係という意味でのふところ具合を気にする必要はなくなった。
安んじてドルを増刷し、経済を膨張させることが出来るようになった。
ドルの金交換性というタガをかなぐり捨てたアメリカは、以降、どんどんインフレ経済化の道を突き進むことになる。
ニクソン・ショック以前においても、アメリカ経済は既にインフレ化の兆候を示し始めていた。
一九五○年代を通じては、物価上昇率といえば、年間せいぜい一,二%程度というのが常態だった。
ところが、一九六九年には消費者物価の前年比上昇率が五・四%に達した。
ベトナム戦争に伴う戦争特需の膨張が一因である。
それに加えて、国民の厭戦気運をそらすべく、「銃砲だけではなくバターも」の掛け声の下で展開された人気取り政策、「偉大な社会」計画によるばら撒き政治も、需要インフレに拍車をかけた。
このころのアメリカは、もはや戦後間もないころの向かうところ敵なきアメリカではなくなっていた。
全世界がドルを欲しがり、全世界がドルでアメリカから物を買いたがるという時期は、一九六○年代とともに終わりを告げつつあった。
アメリカが何も策を弄さなくても、世界の需要がアメリカ経済を成長させてくれる。
そして、アメリカの成長力が世界の繁栄を支える。
これこそが、「パックス・アメリカーナ」と呼ばれる世界とアメリカ、そして世界とドルとの共存共栄の構図であった。
だが、日欧で戦後復興が進み、日欧経済が自律展開への足固めを進める中で、この構図にも変調が生じ始める。
アメリカにとって良いことが世界にとって良いことで、世界にとって良いことがおのずとアメリカにとっても良いことであるという関係は、次第に成り立たなくなっていくのであった。
世界が成長しても、必ずしもアメリカが成長するとは限らない。
しかも、アメリカが成長すると、潤うのはアメリカの産業企業ではなくて、海外の産業企業たちだという状況が現出し始めた。
アメリカ経済の成長力を維持し、アメリカ企業に収益機会を提供し、アメリカ人のための雇用機会を確保するには、アメリカ政府がみずから需要を作り出さなければならない。
世界の復興需要がアメリカを食べさせてくれ、アメリカを豊かにしてくれる時代は終鳶しつつあった。
かくして、一九六○年代半ば以降のアメリカは、財政膨張による需要創出に逼進するようになる。
そのことが、財政収支の悪化と対外収支の赤字化につながっていく。
ここに、後においてすっかりアメリカ経済の病弊の代名詞となる「双子の赤字」の萌芽が現れた。
ただ、こうした需要膨張とそれに伴うインフレ圧力も、ドルの対外的な金交換義務というタガが課せられている限り、野放しにそのエネルギーを発散することは出来なかったわけである。
ところが、このタガが外れたとなれば、もう、インフレ経済化の行く手を阻むものは何もなかった。
その足取りを簡単に確認しておこう。
一九五○年代から一九七○年代を通じて、アメリカ経済は計四回の景気拡大過程を記録した。
各拡大期の最終年となった年について消費者物価上昇率(前年比)をみると次のようになっている。
一九六○年一・六%一九六九年五・四%一九七三年六・二%一九八○年一三・五%これらの数字が全てを物語っている。
むろん、一九七○年代については石油ショックの影響を無視出来ない。
だが、それにしても、拡大ピーク時の物価上昇率が常に前回のピーク時を上回る関係になっているところが注目される。
拡大局面を経るごとに、インフレ圧力が波状的に高まっていく様子がよくみてとれる。
こうして、一九七○年代末ともなれば、アメリカ経済は二桁インフレがすっかり当たり前と化していた。
さて、ここからがいよいよ本題である。
高金利の中の金利規制インフレ率が二桁なら、金利もおのずと二桁が常態化する。
これは当然だ。
人が人にカネを貸すに当たって、返してもらえるまでの間に物価が一割高くなっている可能性が大きいとなれば、最低、一割の利子は要求するだろう。
そうしなくては、みすみす損をするためにカネを貸していることになる。
これでは、金融業は成り立たない。
こうして、利子の水準はその時々の物価上昇率を最低基準として決まる。
その上、インフレ昂進期には、政策も金利を上押しする。
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